冬の悪魔(担当:切符)

 

 私の家にはコタツがひとつリビングに踏ん反り返っている。

 

 コタツはもう幾度となく温められ、足を突っ込まれ、私という人間に家にいる間ほぼずっと、トイレに行く時と風呂に入る時以外ずっと利用されている。私はコタツの上でみかんを剥きながら、「お前は正月まで働いて可哀想だな」と言ってコタツを働かせることに楽しみさえ覚えていた。

 しかしそれは間違いだった。

 コタツを私が利用しているのではない。コタツが私を利用しているのだ。

 気付いたのはいつ頃だっただろうか。そう遠くはない。しかし、気付いた時にもう戻れない状態であることはよく分かった。これはコタツをリビングに飼っている人間であれば誰しもが一度は経験したことのある恐怖である。

――出られない。

否、出られないどころではない。足を持ち上げる気すら起こらない。力が入らないのだ。一度あれに足を突っ込むとまるで金縛りにあったように全身が固まり、私の意思に逆らい自然の摂理であるが如くその場に留まろうとするのである。私は震えた。この数十年間、掃除、宿題、テスト勉強、バイト、それぞれの一番苦しかった記憶は全て冬であり、その原因がこのコタツであることに今漸く気付いたのだ。コタツが人の動力を吸い取っている。コタツはそうして人を利用して己の力を蓄える。コタツの前で何度「さあ動くぞ。1、2、3」と呪文を唱えたか分からないが、魔力においてこの恐ろしい悪魔に勝てる術など無かったのだ。私のみならず、家族全員の足を引きずり込み絶望の海に落とすこの吸引力は正にブラックホールである。果たしてどうすればこの悪魔に勝つことができるのか。それはもう私の手に負える問題では無かった。

 

 何を隠そう、恐ろしい事実に気付いた私は既にコタツに足を突っ込んだ状態のまま動けずにいるからである。

 

 これを読んでくれた皆に伝える。コタツを買ってはいけない。コタツに足を入れてはいけない。コタツに足を入れると、人は働くことを嫌がる。動くことを嫌がる。

 何度でも言う。正月に暖かいコタツに足を入れてはいけない。もし入れたら、次の瞬間には……

 

――寝る。